MIRACLE MANCHURIA −満州の奇跡ー
2008/9/28



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千葉ビレッジ1
参加人数45名(推定)
筆・紅中兵


その1:ココはお國を満州里
ヒストリカルイベントというと、とりあえず軍装凝ってれば良しのごった煮か、テーマを絞ればナム戦ばかりという状況の続く昨今、我々はある筋から1945年のソ連・日本による満州国境戦にターゲットを絞ったイベントが行われるという情報を得た。

これは何ともニッチである。ニッチだがどっちで参戦してもオイシい。正直、どちら陣営に組するか悩んだ。が、本作戦が行われる9月末という時期を鑑みるに、昨年の某越南系イベントが10月でありながらゲキ暑かった事から相当の暑さ対策が必要と想定された。とすると、冬場に絶大な効力を発揮するソ連装備は今回見送るのが妥当だろう。

では日本軍か?しかし、旧軍装備というのもまた「金がかかる」ブルジョアな装備である。上下と革帯だけで¥3万近くってのは我々が普段使用せる解放軍装備だったら1個班の人員フル装備分に相当する。しかもこれはゲートルやら略帽やら雑嚢やら含めずの値段だ。
そこで我々は一考した。戦いの地は遠く満州である。満州軍がおらずして何とするのか。
満軍装備など無いって?無ければ我が人参解放軍が誇る被服廠が製造すれば良い。既に上海戦イベントで国府軍上下を何着も製造販売している実績と技術力を結集すれば、可能となるだろう。とはいえ詰襟も平原帽も新たなチャレンジになる事は確かではある。

・・・途中は長くなるので端折るが、中国の核開発にも比する様な困難と幾多の失敗を重ね、我々は当日の人参軍参加予定人員に行き渡るだけの満軍装備を生産する事に成功した。

しかも、満軍なら史実に則れば戦闘激烈になった際にソ連側に寝返る事も可能である。これは人数比が偏った際の調整として、ゲーム運用上もメリットではないかと思われた(実際にはこれは発生しなかったが)。

歩兵ではありきたりだ。だが、我々には曲射歩兵砲がある。折角なので砲兵として参戦し、砲弾悉く撃ち尽くしの後に「砲なき砲兵」として歩兵戦闘に参加と言うのも某黒騎士部隊っぽくて面白いじゃないか。

さて、「旧軍」で「イベント」といったら我々が忘れてはならない人物がいる。
チーム「武士」で周りがタクティカルな中、唯一輜重1等兵としてなんちゃって三八を駆使し戦い続ける五十鈴殿である。
私は「満州国境に向かうべし」という電文を彼に発したところ、なんと五十鈴1等兵殿もまた、単独でも参戦を考えていたとの事。
折角なので兵科章を用意し、我等砲兵分隊の軍監としての参入を依頼せるも快諾、これで日本人顧問まで付いた完全な満軍部隊としての陣容が整った。

かくして、我々は満州国軍独立歩兵砲分隊としての準備を整え、決戦当日を迎えたのである。
 

その2:コウアンレイノボレ0928
当日朝は千葉駅8:30に集合。
ここから総員輸送車に搭乗して現地へ向かう。フィールド入り口を通り過ぎて現地周辺でちょこっとだけ徘徊したが、それでも5分前到着。

さてまず受付にご挨拶・・・と、れれミスターXとはかつて弥生台で共にモーゼル祭りを展開したその人ではないか!
この世界、広い様でやっぱり狭いものだと感じいりつつ、セーフティに拠点を構築し荷物の展開を行う。テーブルが多数あって敷物なしに荷物を広げられるのが良い。
我々が行った時はまだ半分も埋まっていなかった位だ。

とりあえず準備をしていると五十鈴1等兵殿も程なく到着。
始めは将校装備で行くとの事なので、兵科章を付け「五十鈴砲兵中尉」の出来上がりである。

その後も参加者の到着は相次ぎ、気が付けばテーブルも奥の方以外はほぼいっぱいになる程の盛況ぶり。
受付前付近では軍装品の展示即売会も開かれていた。
ってなこんなをしているうちに、かくしていつの間にか開始時間となり、主催者による本日のゲーム概要説明が行われた後に我々日本・満州陣営は通称「B陣地」にて配置についた。

さて、ここからはいよいよ戦闘開始である。本レポートも架空の国境戦闘の体裁にて筆を進めてみたいと思う。
(あくまでゲームレポートであり、いかなる実在の人物・団体等あるいは個人とも関連ないし、おとしめる意図もない。また架空戦の状況設定として一部実際に起きた事とは異なる記述もあると思うが、あらかじめご了承いただきたい)
 

その3:燃える平原
ソ連国境に近いここB陣地は一段低くなったくぼ地に土嚢を詰んで設置されていた。
我々はこれを守備陣地として活用する事にし、迫撃砲をここに据えつけた。

今回、モスカート用弾と8mm弾以外は部隊からの支給制である。開始前に兵站(主催者)より両陣営1袋ずつのバイオ弾が手渡された。部隊の指揮系統を確認した後に配布をしよう、っと将校は・・・
五十鈴砲兵中尉と満軍歩兵少尉以外、全て下士官・兵であった。
(余談ながら、いちいち「兵だけ募集」なんてシバリを設けなくても、心得てるモンが集まれば黙っていてもこういう事になるんである。しかも午後にはいつの間にかその数少ない将校もいなくなっちゃったし)

という事で、まあ!なんということでしょう、日満総軍の指揮権は最先任の砲兵中尉が執る事と相成った。
自然な成り行きで彼の直属下士となる私に弾薬配布の任が回って来た。
肝心の弾薬配備基準であるが、部隊首脳部にて協議の末、最大火力を発揮出来る軽機に優先配備、小銃兵はとりあえず一掴み、拳銃は1マガジンと決まった。

大急ぎで配布を始めるが、3分の1にも行き渡らぬうちに開戦の合図が!

優先配備をした軽機と、弾薬受領を終わった兵達が続々とブッシュの中に消えていく。
敵の足は速く、開始早々だが既に数名が守備陣地周辺に浸透して散発的な銃撃を行って来た。
発砲の方向に応戦しているとドンドン側面・背面に回りこんでくる。B陣地はたちまち全周包囲され、我々は壕内に円陣を形成してこれに当たった。

我が砲兵隊も当たりを付けた方向に向け発砲を開始。1発、更にもう1発と轟音がフィールドに響き渡る。
しかしながらB陣地周辺は立ち木が多く、折角の砲弾も曲射落下の前に枝葉で阻止されてしまい中々効果的な戦果を出す事が出来ない。

手持ちの砲弾1会戦分(5発)を打ち切った頃にはもう360度に敵を迎えており、私も次々と弾薬補充に戻る下士官兵達への弾薬配布に忙殺され次砲弾の用意どころではなくなったので、愛銃モーゼルを手に早くも歩兵戦闘の戦列に加わる事にした。

敵は巧みにもそうそうブッシュから姿を現さず、しかも向こうからこちらの陣地は丸見えだ。
日満側にとって圧倒的に不利な状況下、守備陣地陥落を目指すソ連兵は小部隊による果敢な突撃を敢行、我々はこれを撃退という激烈な戦闘が幾度も展開された。

そして天の彼方より「あと3分ー」の声が。

この時五十鈴砲兵中尉は敵迎撃に出て陣は不在、砲側墓場の精神で我々と共に陣地守備兵の指揮を執っていた満軍歩兵少尉は決断した。

「弾薬・時間とも我々には残り少ない。これより総員突撃を敢行する!」

少尉の号令が飛ぶ。

「突撃ー!」
「うおーっ!」

陣内の兵、周辺に展開していた兵、およそ号令の届く範囲にいた下士官兵は雄叫びを挙げて一斉に敵陣方向に向かい突入した。

火を噴くソ連兵の軽機。
次々と倒れ逝く守備兵。

かくして日満守備隊はほぼ壊滅、ソ連軍はここソ満国境のB陣地を陥落させ越境作戦の第一歩を完了した。
 

その4:嗚呼、カウンターアタック
さて、第一戦で敗退しB陣地を追われた我々日満混成軍は後退し通称「E陣地」に集結した。
ここは陣地標識こそあるものの防御に使用出来る土嚢も塹壕も存在せず、ただ小高い丘が1つあるのみの地形であった。
当地での守備戦闘は不可能、そう判断した将校団はB陣地奪還を目指す攻撃を下令。我々砲兵隊は欺瞞の為、丘上に砲と満軍国旗を設置した。

今回は藪内をB陣地に向け複数ルートで進む事になる為、部隊は班単位になって浸透を開始。
我々砲兵班はとりあえず周辺警戒を実施、他の歩兵班が勇躍進む姿を見送った後に敵に備えた。

この時、早くも左方に敵の進入せるを発見。
E陣地周辺は我等のホームフィールド井岡山に良く似た植生の為、ここでなら戦闘を有利に展開出来るとの考えより我々はこの侵入敵兵を包囲殲滅する事とした。

砂糖人一等兵が正面から狙撃し、私が右へ大きく旋回して側面から仕掛ける。
2面から挟まれ、左方へと後退を続けるソ連兵。
当然ながら、他方面からの敵接近も充分予想される以上、早く倒して戦列に復帰せねば。

我々は焦燥しつつも、やがてじりじりと敵を追い詰めて行った。少なくとも途中までは。
が、ソ連兵はいつの間にか包囲網を潜って消えてしまい、我々が網の口を閉じた時には離脱された後であった。

一旦戻って再度周辺警備に付こう。そう言い合っていた時、後方より伝令が。

戦闘終了ですっ!敵にカウンター周辺を制圧され、戦死者数を一気に進められてしまいました!」

なんと!恐れていた通り別ルートから侵攻して来た敵が一気に陣地周辺を制圧、日軍の見ている前でカウンターを進めてしまったとの事。
さしずめ輜重部隊が襲われ、援軍も間に合わずこの被害甚大により戦闘の継続が困難となったというところか。
かくして我々はE陣地でも敗退し、更に後方陣地へと退却を続けたのであった。
 

その5:あの旗を揚げるのは貴方
昼食の為休憩を取っていた我々の元に、日・ソ両サイドより同数の人員を出して、両軍中央にあるポールに自陣営旗を掲げてみないかという提案があった。
この1戦で勝利した場合、軍旗を仰ぎ見た後方部隊の士気は上がり補給量が増大する事が予想される。
これまで劣勢を続けた我々陣営としては、この弾薬増量を勝ち取り流れを一気に引き寄せたい構えを取った。

まずは3名の選抜決死隊を出す。
フラッグポールまではダッシュがモノをいう以上、若い力を求めるという条件で選抜をかけたところ、「満州・満州・日本海軍」の3名になってしまった。兵力的に主力である筈の日本陸軍がいないところに本作戦の未来が一瞬垣間見れた気がしないでもないが、やっぱ帝国陸軍からも選抜すべしという事で満軍1名に替わって陸軍選抜兵が戦列に加わった。(その後もう一名増員がかかり、双方4名という事になった)

さて、ルールは簡単、最奥のポールからスタートした両軍選抜兵は途中の監視所にいる機関銃兵の銃撃を避けて手前のポールに持参した軍旗をかかげる、というモノ。
しかし途中の監視塔には双方から選別された軽機関銃手が1名づつ待ち構え、敵兵を銃撃せんと待ち構えているのである(被弾した場合、奥のポールから再スタート)。

さて、この栄誉ある代表に我が満州国軍から砂糖人一等兵が選ばれた。
私は高台に陣取り、我が軍最強戦士の活躍を眺める事とした。

戦闘開始の号令が下る。
しかしこちらからは何が起きているのかうかがい知る事が出来ない。監視塔の軽機手が射撃を始めるまでは待つしかない。
しばらくして、ソ連兵が突出して来た。銃撃を掻い潜ってポール前へ。
軍旗を取ると設置を始め、掲揚しようとするが紐が引っかかったりして中々上がっていかない。
その隙に日本軍側も到着、ソ連兵をポールから引きずり離す者、紐を引いてソ連軍旗の掲揚を妨害する者、するとソ連兵の1人が日本軍旗を持って逃走、これを直ちに追いかける者・・・

壮絶なドッグファイトが展開され、結果は判定に持ち越された。
実質的にはソ連の勝利かと思われたのだが、天の采配は日本軍側に挙がった

旗は揚がらなかったが、我々は勝利したのだ。
 

その6:亀頭要塞防衛戦
なんだか良くわからないうちに判定勝ちを得た我々であったが、ソ連軍の攻撃はこれで沙汰止みとなった訳ではない。
昼前にE陣地を失陥した我々は、遂に決戦場ともいうべき本格陣地地帯へと転進を続け、遂に亀頭陣地(仮)と呼ばれる要塞地帯に到着した。ここは陣前に監視塔を置き陣地間は縦横に交通壕が張り巡らされ、本部近くには天蓋を有するトンネル状の防御設備まで存在するという、日本軍屈指の防御拠点である。
我々はこの地で専守防衛に徹し、後にスチームローラーとも称されたソ連軍の猛攻を迎え撃たねばならなくなった。

しかしながら、先ほどの軍旗掲揚戦の恩恵により、我々は兵站から通常の1.5倍の弾薬配給を受ける事が出来た。これまで弾不足に悩まされて来た我々にとってこれは天の一助である。

今回、陸軍は各々が曹長を班長とする数個班、我が満軍は海軍と共に1個班を形成し、既に五十鈴中尉殿は戦死され双子の弟の五十鈴1等兵が戦列に加わっていたので、部隊の総指揮は満軍少尉殿が執る事となった。

陸軍の数個班は各々陣前に迎撃の配置を取り、少尉殿がその中央で激を飛ばす。
我々は軍旗及びカウンターを守備すると共に、迂回して後方より接近する敵兵を駆逐する任務に就いた。
今回は1兵でも多く前線に張り付きたいので、私も弾薬と装填具を軍旗下に設置すると塹壕に入る。

やがてソ連軍の前進が開始され、陣前方では激しい銃撃戦が開始された。
弾薬切れや負傷で軍旗下まで戻ってくる兵達が引きもきらない。
少尉殿も右へ左へと矢継ぎ早の指示を出し、前線の穴を埋めるべく奔走されている。
我々も敵を軍旗に近づけない為、本部よりやや外側に防衛線を張るべく指示を出して周辺に展開した。

裏街道に相当すると思われる間道を発見した時、その遥か向こうにソ連兵の動く姿が見えた。一旦ブッシュに身を潜めその接近を待つ。
だが、時間的に通過していてもおかしくない筈なのに足音が聞こえてこない。
途中に間道がありそこに入ってしまったのかも知れないと思いながら様子を伺っていた時、後方より海軍部隊が到着した。警戒するよう伝え私を跳躍して前進してもらう。

迂回した敵兵が予想外の地点から進出してくる恐れがある為、私は海軍さんの前進を見届けた後に砂糖人一等兵を呼び、一旦本部に戻った。

「敵はもうそこまで来ている。どこからしかけてくるかわからないから四周に警戒を怠るな」
「心得ました」

我々は戻ってすぐ、軍旗右前方の草むらが動いた。やっぱり来た!
ブッシュの厚いこの地形では拳銃の方が有利な為、砂糖人一等兵に後方バックアップを頼み私が前に出た。ブッシュ間のけもの道を見つけたのと同時に、そこに潜んでいたソ連兵の銃撃が来た。うわっやられた!

撃破され、一旦カウンターまで戻る。当然ながら砂糖人一等兵は敵の存在を承知しているので、その場でアンブッシュに入り敵が侵攻して来たら間髪入れず迎撃する態勢を取る。

私が軍旗前まで戻り、ついでに弾薬装填をしていると海軍部隊が捕虜を連れて帰ってきた。私が一度見失った敵兵と思われる。1兵も損なう事無く捕虜を取ってくるとは「流石、海軍さんは違うよ」である。

弾倉を満タンにして前線に戻ると、砂糖人一等兵は同じ場所に残っていた。敵がいる動きは掴んでいるが出てこないのだそうだ。
そこで一策を案じ、彼が敵の眼前を駆け抜けて注意がそっちに行った隙に私が倒す手筈とした。

砂糖人一等兵が想定三八式を右手に掴んで走る!
おっ敵が動いた!食らえぃ!

「パパン」
「ぐわぁっ!」

見事に成功。
直ちに砂糖人一等兵を呼び戻し、敵の潜伏したけもの道を遡行する。後続する敵兵の撃破を狙ってだ。
だが、敵はその先にはいなかった。どうやら海軍さんが手取りにしたのと今撃破したのが亀頭陣地(仮)右方より接近した敵の全てだったようだ。あるいはかなわぬと見て後退したか?

通常の戦闘であればこのまま接敵するまで前進し、友軍の戦闘を側面から支援するのだが、今回は進出限界点が設けられ絶対防衛ラインより前進する事は厳しく禁止されている為、誤ってラインを超えてしまう事を避ける為に一旦陣地へと戻った。

前線より弾薬補充に戻った兵に様子を聞くと、どうやら右前方ではNKVDのカツが入ったらしく、この方面で激戦中であるとの事。戦線維持の為に我々も壕を跳躍して急行する。

私がたどり着いた時、最前線では三八式を持った兵1名がかろうじて生き残っており正面から軽機関銃の銃撃を受けているところであった。
直ちに彼のいる防御胸壁まで突入し、敵の位置を探る。すぐに撃ち込んで来た。
しかし、我が前に姿を晒した時点で彼の命は終わったも同然。銃眼からモーゼル弾を叩き込む。

「うぐはっ!」

悲鳴と共に、すぐに静かになった。

だが、この時既に敵の作戦目標時間まで残りわずか、ソ連軍の猛攻はもう私の正面だけでなくほぼ全線に渡って開始されていたのだ。
防御胸壁で頑張っていた兵士もいつの間にか被弾し後退、砂糖人一等兵も別の手薄な壕に入って戦闘中で連絡も取れない。

少尉殿が戦死者数を訊く。

 後方より「33」と回答あり。 (ナベアツ読みしない!)

  いかんあと7名だ。

私は「戦争はもうすぐ終わる。日本軍将兵は命大事モードで!」と叫んだが、激しく交戦の最中にどれだけ聞こえただろうか。
出血を物ともしないソ連軍の総攻撃が続く。私は何とか取り付いた地点を死守していたが、陣地左方では夥しい戦傷者が出ていた模様だ。

やがて作戦遂行期限の時間を迎え、ソ連軍は攻撃を停止して退がって行った。
結局亀頭要塞(仮)がソ連兵の軍靴で蹂躙される事はなかったが、果たしてこの戦闘の結果はどうだったのか。

日本側はタイムアップの時点で戦死者数は38だった様だが既に戦死し戻る途中の兵もいた為プラス数名という事で、これを併せると想定限界の40名を超える状況であったが、陣地はかろうじて保持していた。

ソ連側は戦死者数は想定範囲内であったものの、日本軍陣地の陥落は果たせなかった。
日本側の被害は過大であったが、一方のソ連側も制限時間内に攻撃目標の奪取が出来なかったという事で、この作戦指導に当たった将校士官は全てNKVDによって問答無用で粛清れてしまった。

この為、一応日本側の勝利という事でソ連軍の攻勢は幕を閉じたのであった。
 

その7:アムール川で勝利せよ
亀頭陣地(仮)をかろうじて防衛した我々の元に、関東軍第●師団司令部より命令書が届いた。
攻勢失敗で混乱している隙に乗じ、今度は我々が敵の司令部を急襲して陥落せしめ、ソ連軍をアムール川の向こうに押し戻せというものだ。
確かに、ここで反撃に成功すれば初戦の連敗を取り返す事が出来るだろう。
しかし我が方は度重なる死闘の末に幹部指揮官の戦死が相次ぎ、既に将校と呼べる人員は皆無となっていた。
それでも我々はやらねばならない。下士官が各部隊を率いて、敵の前線司令部目指しコマを進めていった。

今回の我々は砲無き砲兵部隊として、満軍プラス兄の仇討ちに燃える五十鈴1等兵を加えた1部隊となり歩兵戦闘に就いた。
敵司令部の右側面を大きく回り、敵連絡壕を経由してトンネル陣地に突入しこれを確保、迫り来るソ連兵に出血を強いるという方針の下、因縁のE陣地、その先のF陣地と進む。

五十鈴1等兵の案内で左に折れ、ブッシュに突入した。
ここから先はけもの道だ。
左右を厚いブッシュに阻まれ三八式では取り回しようがない為、またしても拳銃装備の私が前衛として進む。

やがてけもの道の十字路が見え、ここは守備側の待ち伏せにもってこいな地形と伺えた。しかし私の後方には4名が続いており、ためらう暇はない。身を呈しても進まねばならない。
様子を伺おうとわずかばかり出たとたん、短機関銃を食らった。距離にしてほんの3mもないだろう。
かつて我々がやったのと同様に、前進防御体勢を取った守備兵と思われた。
という事は目標までかなりの接近を果たしたという事だ。

後は後続に任せ、私は一旦戦線を離脱する。
本部まで戻りカウンターを1進めるついでに弾倉へ補充を行うと、大至急前線へと向かう。
何とか友軍の敵司令部突入前に再び合流出来ると良いのだが・・・

F陣地付近まで駆けて来た時、前方からソ連兵が出てくるのが見えた。
急ぎブッシュに飛び込む。
発見されていたとするとすぐに後方から追撃してくる筈なので、ブッシュ内を敢えて通路を外しけもの道を進む。
だんだんと狭くなりやがて頭の大きさ程度しか道としての空きがなくなってしまった。
ほとんど地面とお友達状態だが、どうやら敵は私を見失ってくれた様だ。

敵から離脱するにせよ友軍部隊と合流するにせよ、とにかく前進しかないので地面に這いつくばって進む。
こういう時に装備品を必要最小限にしていないと、引っかかったり動きが制約されたりして要らぬ苦労をする事になるのだが、今回はハナから歩兵戦闘が見えていたので装備品を絞っていたのが効いた。
また、加えて先日中華街で調達した布靴も我が機動に大きな助けとなった。極めて身軽な上に完全な無音移動を可能にしてくれたからだ。

周囲の足音と会話から周辺にいるのが敵か味方かを判別し、慎重に進む。
途中2度、ソ連軍が間近を通り抜けて行くのをやり過ごした。
その1つで、こんな会話を聞いた。

「あっちで満軍部隊を迎撃、全滅させて来た」

なんと、我が同胞は全てロ助の手にかかって果てていたか。
かくなる上は我輩だけでも敵司令部に突入を果たし、「満州国軍これにあり」と見せ付けて華々しく散ってやろうと固く誓う。

更に進んだ時、右手より動く者が。またソ連軍か?

囁く様な声が。

「満軍か?」
「そうだ」

日本軍(陸軍歩兵)であった。どうやら彼は前線に向かう敵兵を背後から襲おうとしている様で、私の右手から左手側へと機動していく。私は直接司令部を狙っていたので、ちょうど彼とクロスする形で別れた。

敵の手足を狙う者。敵の頭脳を狙う者。

一見優勢に見えたソ連軍防衛網だが、実は既に綻び始めていたのかも知れない。

私はその後も敵に気付かれる事なき様、時間をかけてじりじりと多数の声がする方へと接近していった。
既に眼前すぐには敵の監視塔があるところまで附接、ブッシュを透かして敵兵が右往左往する姿も伺い知れる所まで到着した。
このまま監視塔に殴り込んで占拠し、味方を呼び寄せようか。

その時、天の声が。

「あと5分ー」

敵司令部方面から声がする。

「カウンターは幾つだ」
「38です」

だいぶ良い所まで押してはいた様だ。しかし戦況を見るにソ連側は弾薬補充に戻りはするものの、戦死者は出ていない。
「命大事モード」が徹底されているようで、無謀な力押しをする事なく慎重に日本軍の攻撃を跳ね返している様子が伺える。

再び天の声が。

「あと3分ー」

敵司令部付近が俄かに騒がしくなった。どうやら予備兵力を投入して一気に日本軍への出血を強いる事で、勝敗を決するつもりらしい。
これは監視塔どころではない。可能な限り前線に向かう敵兵を倒し、友軍への圧力を低減する事こそ今の我が務め。拳銃一丁で何人と差し違えられるか記録に挑戦だ。
匍匐する方向を変え、中央通路方面に向かう。しかし初弾を浴びせるまでは発見される訳には行かない。
心は早鐘の如く焦るが、動きは出来る限り緩慢にして何とか適当な位置まで着いた。

ようやく迎撃体勢が取れた後に、敵の一団がやって来た。私の位置は機動する敵の側面を完全に取っている。
視界に入る敵兵。

1人。
2人。
3人!

これ以上は待てぬ。もう行くしかない。
愛銃モーゼル盒子砲が火を噴く。

1人目、被弾後半回転して崩れ落ちた。

2人目、いきなり前を歩いていた仲間が倒れる姿に驚いているうちに、彼も後を追った。

3人目、既に小銃の銃口がこちらを向いている。だが短機関銃ではなく装桿式小銃だったのが私に幸いし、彼も討ち果たした。

3人瞬殺であった。断っておくが我がモーゼルはフルオートではない

これで、銃声を聞きつけた敵兵が雲霞の如く押し寄せるだろう。
三国無双の様な死闘を覚悟した時、敵方の声がした。

「損害超過、司令部は陥落だっ!戦闘終了ーっ!」

そうだった。ソ連側の損害は40名を超え、勝利条件は達成されたのであった。

3人瞬殺の劇的な一戦と、我が手で勝負を決した事の充実感を噛み締めつつ、私は友軍が歓喜する散兵線へと戻った。
 

その8:王家の門将
日満混成による亀頭陣地(仮)防衛とその後に続くソ連軍司令部失陥により、ソ連軍主力は国境外へと叩き出され、ソ連首脳部は停戦を模索し始めたとの情報が伝わって来た。
何故こんな重要情報が届いたのかと言うと、停戦交渉の通訳として満州国の王族が前線近くに来るとの事で、我が隊がその警護を命じられたからだ。

その方は皇帝陛下に極めて近い筋との事で、愛新覚羅 溥埒(あいしんかぐら ふらち)殿下という。

しかしながら、まだ最前線では散発的な戦闘も続いており、また停戦を潔しとしないソ連軍内の一部青年将校は日満の使者を亡き者にして交渉を決裂させんと暗殺者を送り込んでいると密偵からの情報も入っている。
交渉の開催が和平への必要条件なのだが、その一方で極めて危険な状況でもあった。
我々は全力を挙げてこの交渉を成功させなければならない。

我が満軍独立砲兵隊(歩兵として戦闘に参戦)は満軍繋がりという事で、殿下の身辺警護を仰せつかった。
他の日本軍部隊は周辺に広く展開して敵障害勢力の排除に当たる。

日本軍監の1人が「この先に敵の目につきにくい防空壕がある。急ぎそこに殿下をご案内せよ」と言う。
行ってみると斜面をくり貫いた様な形になっており、この中に入れば敵の接近方向はかなりの制約を受ける為、防衛上かなり有利と思われた。
早速殿下にはここにお隠れ頂き、我が満軍親衛隊は3方に展開して不審者の侵入に備える。

展開後、迂回を試みて来たと思われる敵の一隊が砂糖人一等兵の配置正面に侵入した。
我が隊屈指の精鋭たる彼なら苦も無く撃破してくれるだろう。
という事で私は自分の守備範囲に注意を集中する。
ほどなくして友軍の一隊も到着し、この敵を追撃に入った事により当面の危険は去った。

その後は敵の侵入を受ける事もなく、殿下周辺は静かに時が過ぎて行った。時たま友軍がちらほらと通過する以外は。

そして残り時間5分。敵間諜が動き出すと言われている時間だ。
警戒の為、一旦我が隊を集結させる。

スパイ戦なら過去に散々やった。コツは視界内にいない友軍を作らない事だ。
私がその旨を伝えようとした時、殿下の間近で発砲音が!

いかん!

駆けつけた時、逃走する衛生兵が視界に入った。
ただちに砂糖人・金子の両兵を追撃に向かわせ、私は殿下の安否を確認する。
幸い、天然の要害が殿下への直射を困難にしたらしく、尊い御身はご無事であった。
異変を聞きつけた海軍陸戦隊も駆け付けた。私は手短に状況を説明する。

「殿下を刃にかけんとするとは不届き千万。おのれ赤チンめ、許さぬ!」

そういい残して彼らも追撃モードに入り、森の向こうに消えていった。

程なくして、実況中継が聞こえて来た。

「今、ソ連のスパイが国境に向け逃走中ぅっ!これを追撃するのは・・・ま、満州国軍だぁぁっ!

おお、我が部隊は戦闘を継続中の様だ。

さらに中継は続く。

「まっ満軍の動きが良いぞぉぉぉぉぉーっ!これはもしかして、精鋭特殊部隊なのかあぁぁぁぁっ!

ふっ、その通りさ。私は一人ほくそ笑んだ。
現在定期活動参戦メンバー中で1・2を争う我軍屈指の2人が連携してしているのだ。たとえ小粒で最低限の単位であってもその戦闘力が卓越したものであるのは当然といえよう。
惜しむらくは私もこの追撃戦に参加したかったのだが。それだけが心残りだ。

しかし、この間諜騒ぎの隙にスメルシュの暗殺部隊が殿下を再び狙うやも知れぬ。我が隊は御盾となってでも殿下を守り抜くという使命を帯びている以上、私が軽率にここを離れる訳にはいかないのだ。

そんな事を考えていると、三たび中継が響き渡る。

「なっ何なんだ、満軍、動きがやけにタクティカルだぞおぉぉぉぉぉぉぉっ!

戦後の関係者達からの証言によると、この時の我が精鋭達は縦横に巡らされた塹壕内を我輩が先日のゲーム時に教示した「跳躍前進」を実戦で活用して進み、塹壕の交差地点ではインドアファイト宜しくポイントマンとそのカバーを以って1つ1つ通路の安全を確保する等、我が軍が取り得る全ての戦術をフルに駆使して塹壕地帯を突破して行ったそうである。
しかも彼らの得物はいずれも操桿式小銃。

期せずして遠くこの満州の地が、基本動作を身につけていれば武器や装備に関係なく戦闘を有利に進められるという事を実証してみせる場となった事は興味深い。

かくして、その猛攻で次々とソ連軍塹壕地帯を突破して司令部へと近づいていった我が満軍特設隊であったが、如何せん時間を変える事は出来ず、残念ながらタイムアップで本作戦は終了となった。
仇は討てなかったものの、殿下がご無事であったという点からは、我々の任務は無事達成されたといえよう。

ちなみに、ソ連軍陣地目指し逃げていった裏切り者の衛生兵は、2重スパイを疑われて亡命が受け入れられなかったそうである。
理由はどうあれ逃げて来る者への仕打ちは、厳しい
 

その9:終わり無き消耗戦
外交交渉の開催が無事行われた事により、日ソ両軍の間に停戦が成立し両軍とも主力は粛々と後退を始めた。
しかしながら広く満州国境に散らばった両軍部隊への伝達と収容は容易ではなく、まだ一部では残留部隊同士の戦闘も置きている状況であった。
当然ながら既に補給は行われない。両軍とも現有弾薬をもってして戦闘を継続する事となったのである。

さて、我が満軍砲兵隊はこれまで数度の機会毎に充分な弾薬補充をして来たお陰で、この最後の衝突でも不安なく任務に就く事が出来た。
今回我々は、国境最前線にある因縁のB陣地を起点として集結し、周辺に残留せるソ連軍残党を掃討する任務に就いた。

今回は弾薬配分の必要もない為、我々もすぐに戦場に出て警戒前進を続ける。
やがて、うち捨てられた監視塔が見えるところまで進出した。既に日本兵が1名。
右手の茂みに敵短機関銃兵がおり、危険だとの事。
であれば防御拠点として有効な前方の監視塔を奪って足がかりとし、敵と対峙しよう。

我が合図と共に敵潜伏地点に向け金子一等兵の援護射撃。その間に私と砂糖人一等兵が監視塔に滑り込む。成功。
如何に操桿式小銃といえど、統一指揮の元に一斉射撃を行えば自動火器でも黙らせる事が出来る。
こういった連携戦闘こそ我が軍が普段より得意とするところだ。

監視塔自体は制圧したが、まだ有効利用できているとはいえない。塔上部に登れば周辺を一望出来る上に、高低差を利用して有利に戦闘を進める事が出来る。
そこで再び、塔の内外から援護射撃を行い、その隙に砂糖人一等兵を塔上部に上げる事に成功した。

だが、上がって見たところその周辺にはまだまだ敵がおり、うっかり一方向だけに気を取られていると視界外の敵から反撃を受ける恐れがあるという。
それでは、一番近くにいるのは塔の下の私である。再び援護射撃を命じ、一気に仮設階段を駆け上がる。
幸い敵の射撃はなく、私も無事監視塔上部へと到達する事が出来た。

ここは網が張ってあるので、被弾する事なく敵の動きを監視する事が可能だ。勿論自分が射撃をする場合はこの網上部から乗り出さなくてはならないが。
周辺の敵状況を探っていると、後続する日本軍が来援した。何と軽機だ!
金子一等兵が周辺状況を説明した後、この日本兵は防衛強化の為に監視塔下部まで進出した。

しかし、軽機の存在は敵にとっても脅威である。
今までおとなしく雌伏していたソ連兵がこの軽機を狙い始めた。とたんに騒がしくなる監視塔周辺。
我々も応戦したが、残念な事に軽機兵は被弾し一足先に某神社へと旅立った。

かくして、戦力はまた元の状態に戻った。

私と砂糖人は死角を作らないよう、各々周囲に監視の目を配った。
どうやら四周に敵は散在している様だ。一方に気をとられていると他方で蠢動する気配がする。
何にせよ、少数である事は確かなので敵方も思い切った攻撃は逡巡している様だ。
1人づつ叩けると良いのだが、中々手練の様でほとんど一瞬しか姿を現さない。
何とか捕捉して叩き込んでみたりもしたのだが、沈まれてしまうと濃いブッシュに阻まれるので有効打とならない。
まだ監視塔より離れた地点にいる金子一等兵に注意を促す。彼は敵と同様にブッシュ内にいるので、この点五分と五分だ。

砂糖人一等兵より注進。「監視塔入り口となる階段部分は網もなく、ここから狙撃されると危険です」
現状の敵の位置を推測し、ここから撃ち込まれても被弾しない位置に移動した。
しかし、もぐら叩きの様に出没する敵兵との叩き合いをしていて、ついうっかりこの射界に入ってしまった。

ピンポイントの狙撃。敵ながら見事!
かくして私も一足先に某神社へと向かう事となった。

私が去りし後の状況は彼らからの伝聞だが、完全に包囲された状況下でなおも敢然と立ち向かいその武威を示したものの、敵の見事な配置と隙のない攻撃により監視塔周辺は陥落、彼らも後を追って来る事となった。

その後も双方終わり無き消耗戦は続き、いつしかその銃声も聞こえなくなったという。

かくして国境は再び静謐を取り戻した。そう、全ては元通りのまま・・・
ソ連の越境作戦は水泡と帰したのであった。
これが後の歴史家によって「満州の奇跡」と呼ばれた戦闘の一部始終である。

後に発見されたあるモスクワ警備兵の日記によると、この情報がクレムリンに届いた時の様子がこう書かれていたという。

「スターリン涙目。」

(終)


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